観想的生活

かんそうてきせいかつ

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大嫌いな統失の祖母のお見舞いに行ってきた。

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「そういえば、おばあちゃん、入院したのよ」
一週間ほど前に母からこう告げられた。

どこが悪いのかは母が話して聞かせてくれたが、正直忘れた。

いや忘れたというか、聞いてなかった。

腸がどうのこうので、栄養が届かなくて、吐いて、救急車、とかなんとか言ってた気がする。

祖母の話は聞きたくないので無意識に聞き流していた。

先日たまたま実家に戻る用事があり、その時に母から「お見舞いに行こうね」と言われた。

ここで私は「うん。」と言わずに、少し考えた。

見舞いに行かなければ、それが祖母への仕返しになると思った。

孫に対して、あんな風に接したのだから、自分が弱った時、助けてもらえないんですよ、心配してもらえないんですよ、当たり前ですよ、と。

しかしあの祖母が己の行いを省みたりする人間だろうか。

絶対にない。

なんであいつは来ないんだ?小さい頃から面倒を見てやったのに、といつもの大声で文句を垂れるに違いない。


すると母は口を開いて、祖母の追加情報を私に与えた。

「おばあちゃん、あんまり喋れないのよ。弱っちゃってね。」

あんまり喋れない?

弱っちゃって?

まさに口から生まれたようなあの祖母が今そんな状態なのかと想像をしたが、それは容易ではなかった。

見てみたい、と思った。

祖母に対する愛情も、心配も、憐れみもない。

あるのはただ一個体への純粋な興味だった。

「うん。お見舞い、行こうか。」

「そうだ、京都行こう。」よりもずっと軽く、言語は声にのって流れていた。





お昼過ぎ、私は母と車で近所の総合病院に向かった。

幼い頃、喘息の治療で通い詰め、入院したこともある病院。

記憶の中のこの病院は、もっと綺麗で新しくて大きくて、得体こそ知れないが絶対的な信頼を私に与えてくれていた。

今見ると、脆く簡単に崩れてしまいそうな気がした。

単に建物が古くなっただけではない。

子供が成長するにつれ、親の不完全さを感じて幻滅するように、絶対的なものはどこにもないということを当たり前のように理解するようになっていたようだ。


エレベーターに乗り込み、祖母の病室を目指した。

一つ角を曲がった先に、祖母の個室はあった。

母の後ろについて、私は入室した。

まず目に飛び込んできたのは、窓の外のどんよりとした灰色の雲と、ベッドの手前に立つ二本の金属の柱であった。

柱にはいくつかの液体が入った透明な袋がぶら下がって、そこからチューブが電子機器を経由して伸びていた。

その先に祖母は横たわっていた。

正直なところ、予想以上の衰弱具合だった。

白髪は頭の形がわかるほど抜け落ち、口には酸素吸入器をつけ、青白い頬にもいくつかのチューブがテープで固定され、ただ大きな目だけが時折瞬きを交えながらどこかを見つめていた。

身体は布団に隠れてほとんど見えないが、少し覗かせた肩はパジャマにくるまれていても、頭が異常に大きく見えるほど痩せ細っていた。


「お義母さん、〇〇(私)が来ましたよ。」

と母が声をかけるまで、その眼球は私を映すことはなかった。

あの祖母が、あの二言目、いや、一言目には悪態をつくような祖母が、何も喋らない。

「〇〇、髪を染めたんですよ。見てほら。」

何も反応がない。

「タオルはまだあります?」

またもや無反応。

「少し良くなりました?」

軽くうなづいただけだった。


祖母の何も見えていないような生気のない黒目を見ていたら、私の瞳は少し潤んできた。

ただそれは祖母に対する情などではなく、赤の他人が病気になって死ぬ、ノンフィクション映画を観ているような感覚だった。

身内ながら、祖母は器量が良かった。

若い頃勤めていた会社では、全国の支社から美女を集めるミスコンにも参加したと聞いている。

実際に彼女は、二重でぱっちりとした目、鼻筋がしっかり通りつつも大きすぎず品のいい鼻、程よい厚さの唇に綺麗に並んだ白い歯をのぞかせた、紛れも無い美人だった

私は60過ぎてからの祖母しか生で接したことはなく、歳を重ねるごとに白髪もシワも増えていったが、それでも元の造形の良さは健在だった。

それを見ているから、あれだけ若々しくて美しい人も、いずれはこんなに弱々しくなってしまうのだと悲しくなった。





しばらくはそうして祖母に見知らぬ人物を重ねていたが、突然憎さゆえの感情が頭に浮かんだ。

今このチューブを引っこ抜いたら、祖母は死ぬのかな。

あれだけ私を苛立たせてきた人間が、今は弱っていくつもの管に命さえも預けている。

まさにまな板の上の鯛だった。

いくらでも、どうすることもできた。


そのままぐいと手を伸ばし、チューブを引っこ抜く自分を想像した。

「ちょっと、〇〇、なにやってんの!!」

母が叫ぶ。


でも、本当は嬉しいでしょ?

あんなに祖母相手に苛立ってたじゃない。

ブツブツ暴言吐いてたじゃない。

祖母なんていなけりゃいいって考えたことくらいあるでしょ?

ちょうど近くを通りかかった看護師が母の声を聞き、駆けつける。

看護師は驚愕の表情を浮かべて走り去り、やがて大勢の医者と看護師が部屋に飛び込んできて…

結局、私の口からは何も発しないまま、面会は終わった。




病院を出てから、病床の祖母から派生したあらゆる感情は、母の車で10分と走らないうちに消えてしまった。

もうどうでもよかった。

あの様子なら、長くても数年だろう。

薄くて軽い訃報が届くまで、穏やかに、ただ待つという次元にも到達しないままに、もう祖母のことは考えずにただ日々を消費しようと思った。




当為くま@kannso_tekiでした。

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